2020/10/05
1/1ページ
スペシャルコラムドラッカー再論
第237回
ドラッカーは75歳で『イノベーションと企業家精神』を書いた。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO 井上和幸
ドラッカーの3大主要著書とも言える『イノベーションと企業家精神』は、1985年、ドラッカーが75歳のときの著作だ。
その扉で(おそらく翻訳者の故・上田惇生さんの言だと思うが)「イノベーションと企業家精神が誰でも学び実行することができるものであることを明らかにした世界最初の方法論である」と著されている。
今回から『イノベーションと企業家精神』を追っていきたいと思うが、そのためにまず、ドラッカーはどのような意図で本書を書いたのか、確認してみようと思う。
「イノベーションと企業家精神は才能やひらめきなど神秘的なものとして議論されることが多いが、本書はそれらを体系化することができ、しかも体系化すべき議題すなわち体系的な仕事としてとらえた。」(『イノベーションと企業家精神』、1985年)
ドラッカーは本書について、実践の書としてイノベーションの原理と方法、企業家の姿勢と行動(性格や心理ではない)について述べたと言う。
何を、いつ、いかに行うべきか。方針と意思決定、機会とリスク、組織と戦略、人の配置と報酬を扱ったと。
ドラッカーはイノベーションと企業家精神について、①イノベーション、②企業家精神、③企業家戦略の3つに分けて論じている。
①については、イノベーションを目的意識に基づいて行うべき一つの体系的な仕事として提示している。また、イノベーションの機会を、どこで、いかに見出すべきかを明らかにしている。さらにそれを現実の事業に発展させていくにはどうすればよいのか。行うべきこと、行うべきではないことを明らかにした。
②については、イノベーションの担い手たる組織に焦点を合わせ、組織が成功するための原理と方法は何か、企業家精神を発揮するにはいかに人を組織し配置すべきなのか。その際の障害、陥穽、誤解があるとすればそれは何なのか。さらに企業家の役割とその意思決定について明らかにしている。
③については、現実の市場において、いかにイノベーションを成功させるか。それは新奇性、科学性、知的卓越性によってではなく、あくまでも「市場で成功するかどうか」によって決まることを述べている。
「企業家精神は科学でもなければスキルでもない。実務である。もちろん知識は不可欠である。本書はそれらの知識を体系的に提示する。しかし、医学やエンジニアリングなどほかの実務の知識と同じように、企業家精神に関わる知識も目的を遂行するための手段である。したかって、本書のような著作は実例による裏づけがなければならない。」(『イノベーションと企業家精神』)
...
こちらは会員限定記事です。
無料会員登録をしていただくと続きをお読みいただけます。