2020/08/17
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スペシャルコラムドラッカー再論
第231回
イノベーションで織り込むべき「失敗の判断と対処」。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO 井上和幸
イノベーションのための戦略には、失敗のリスクを織り込んだものでなければならない。
「いつイノベーションのための活動を中止するかの決定は、いつ事業化するかの決定と同じように重要である。ある意味では、より重要である。イノベーションに成功する研究所長は、成果をあげない研究をいつ破棄するかを知っている。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
イノベーションは、望みえないものを望み、科学的な挑戦に目を奪われ、「来年には」という空手形に騙されたときに失敗するとドラッカーは諫める。
「彼らはプロジェクトを捨てきれず、一見素晴らしいアイデアが人と時間と金の浪費を招いているだけであることを認められない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
しかし事実上は、イノベーションのための活動のかなりのものが、成功でも失敗でもなく、「成功まがい」に終わっているのだとドラッカーは指摘する。
この「成功まがい」こそが、実は失敗よりもはるかに危険なのだ。
最近で言えば、「業界に革命を起こす」「これまでになかったソリューション」、そんな喧伝が、鳴り物入りの大型資金調達とともに報道される。さて、数年後、その中のいくつが<真のイノベーション>を実現して市場に波及、事業がしっかりマネタイズされているだろう。
最悪なのは、明らかに失敗とみなされたものよりも、その後も累々と追加資金調達を続けながら、一向に事業が本格的に立ち上がらない「成功まがい」ベンチャーではないだろうか。図らずもこのコロナ下、今後そうした「成功まがい」の注目ベンチャーの大型破たんが続くと予見しているが、単なる危惧に終わればよいと老婆心ながらに祈っている。
「興奮させられるイノベーションとして手をつけられ、大きな目論見に幻惑されている新製品、新プロセス、新サービスはいくらでもある。日常のものとなることが予定されながら、特別な人たちがもらってくれるだけの記念品に終わっているものもある。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
したがって重要なことは、期待するものを検討し書き留めておくことだとドラッカーは指南する。
「イノベーションが新製品、新プロセス、新事業を生み出したとき、それら期待したものと比較する。結果が期待を下回っているのであれば、人材と資金をそれ以上注ぎ込むべきではない。『手を引くか。どのように手を引くか』を考えなければならない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
さて、前回までにドラッカーがイノベーションの戦略...
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