TOP ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術 「何でも皆で決める上司」がリーダー失格であるワケ

2020/01/23

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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

第59回

「何でも皆で決める上司」がリーダー失格であるワケ

  • キャリア
  • ビジネススキル
  • 伊藤 羊一氏 武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部学部長 Musashino Valley代表 LINEヤフーアカデミア学長 Voicyパーソナリティ
 

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私は、現在Yahoo!アカデミアという企業内大学の学長として、ヤフーグループ社員のリーダーシップ開発をしています。しかし、リーダーになるんだ、とか、リーダーシップを研究するんだ、とかいう思いは、もともとまったくありませんでした。   私がリーダーシップに目覚めたのは、ごく最近のこと。具体的には、2011年の東日本大震災のときです。   そのとき、私は前例のない非常事態下で、「これが目指すべき方向」という道筋すら見えない中、さまざまな選択と決断を迫られました。こうした状況で、普段は見えなかった「真のリーダーシップとは何か」が見えてきました。

本記事では、「リーダーの仕事術」ということで、私の著書『やりたいことなんて、なくていい。』から、私がなぜリーダーシップに目覚めたのか、そして私が考える真のリーダーシップとは何なのかについて、話したいと思います。

 

◆ある苦い経験が、震災後の行動をガラリと変えた

2011年3月11日、東日本大震災が起きたとき、私は文具・オフィス家具製造流通のプラスの副部長をしていました。そのときの私は、責任者として職場の避難と安全確保に走り回りながらも、「自分たちにできることは何だろう」と、ひたすら考えていました。

 

実は、私は東日本大震災の前に、一度苦い経験をしています。それは、同じくプラスにいた2004年10月に、新潟県中越地震が大きな被害を出したときのこと。当時の私は物流の現場にいながら、これといった行動を何も取ることができなかったのです。恥ずかしながら、淡々と日常業務をこなしているだけでした。要請があったら何か送る、という程度のことしかできませんでした。その後、時間がたつにつれて、大きな後悔に襲われるようになりました。「物流の現場にいたら何かできたはずなのに、何もしないでよかったのか」と。はっきり言って、自分がとても情けなかった。

 

だから、東日本大震災のときは、過去のじくじたる思いから、自分なりに考え抜きました。地震のあった3月11日は金曜日。土日中、情報収集とできる業務処理を行いながら考え続けた結果、週明けの月曜日に、私は考えをまとめてみんなに宣言しました。「一刻も早く、通常の営業を復活させる。そのことに全力を集中させよう」と。

 

自社で扱っている商品の中には、水もあれば携帯用コンロも電池もある。ゴム長靴や台車、ダンボールや消毒液、土のう用の袋やスコップだって売っている。こうした緊急時に必要な商品を必要な人のもとへ迅速・正確に届ける。この業務をいち早く復活させ、本業を回すことで、私たちはこの未曾有の混乱時に、もっとも力を発揮できる。そうすることが、被災地のために一番役に立つことである。そう考えて、メンバーの前でこう宣言したのです。

 

しかし、ことはそう簡単ではありませんでした。実際に結果を出すために、動く。その過程では、さまざまな問題が発生し、問題にぶつかるたびに決断を迫られるわけです。例えば、プラスのお客さまは全国にいます。しかし、今この局面で、最優先でリソースを回すべきなのは、大きな被害を受けた東北です。たとえ関西や九州のお客さまからクレームがあってもそれは(申し訳ないけれど)後回しにして、ひたすら東北の復旧にリソースを集中させよう。メンバーの中には異論を唱える人もいましたが、そういう苦しい判断を日々行わなければならなかったのです。

 

もちろん、全国どの地域の顧客も、大切なお客さまです。注文してもらっているのに、後回しにしろというのは心苦しい。私も散々迷った上での決断でした。これを繰り返しているうちに、苦しいけれど、だからこそ、それを決めるのがリーダーの仕事なんだ─と、私は気づいたのです。

 

◆多数決や論理的に決めるだけなら、リーダーはいらない

何かをやろうとするときに、AとBの2つの選択肢があるとします。両方ともできる状況なら問題はありません。また、多数決で決めよう、というなら簡単です。でも、それはリーダーの意思決定ではありません。決定を一人一人の意思に任せているわけですから。

 

あるいは、どちらかを選ばなければいけないとしても、AとBそれぞれのメリットとデメリットを挙げて比較すれば自ずと正しい選択肢が分かる場合は、正解が見えているのですから、これは意思決定でも何でもないな、と思います。これはリーダーにしかできない仕事ではない。論理的思考力があれば誰でも「正しい」答えを出せるからです。

 

メリットやデメリットを整理しても、正解を導き出せない問題がある。AとBのどちらを選ぶのが正しいのか、絶対的な答えが出ないことがある。だいたい、世の中の問題には、「正解」などなかったりします。そこで判断をするのが、リーダーの仕事です。これが意思決定です。

 

プロフィール

  • 伊藤 羊一氏

    伊藤 羊一氏

    武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部学部長 Musashino Valley代表 LINEヤフーアカデミア学長 Voicyパーソナリティ

    アントレプレナーシップを抱き、世界をより良いものにするために活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、LINEヤフーアカデミア学長として次世代リーダー開発を行う。代表作「1分で話せ」は60万部超のベストセラーに。

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