2019/09/30
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スペシャルコラムドラッカー再論
第190回
中企業のマネジメントは、こうあればよい。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
前回まで見てきた通り、ドラッカーはどうやら中企業を一つの望ましい状態と捉えている節がある。
「中企業はすでにそれぞれの分野で一流である。他の企業にはできないことを楽にこなしている。したがって、自信過剰となっている恐れがある。有能であるがゆえに日常が平凡である。危機など滅多にやってこない。誰もが行うべきことを知り、それらのことを行なっている。したがって、新しく興奮させられることをしたいという欲求に常にさらされる。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
こうして中企業は、自分たちの能力、知識、スキルを多少なりとも適用できる分野であれば、さほど苦労なく進出できると勘違いする。そうして二流の事業に手を出して失敗しやすい。
実際、業績好調の中企業のトップマネジメントは、類似の分野にある他社がさほど優れた業績をあげていない理由が分からない。自分たちなら容易にリーダー的地位を獲得できると思う。しかしそうは問屋が卸さない。自らの知識と能力が、どれだけ類似の他事業に移転できるかを知ることは容易なことではないとドラッカーは釘を刺す。
「中企業の成功の秘訣は集中にある。日本のソニーは、得意分野であるニッチからは動こうとしなかった。同時に、採算の怪しいものには手をつけようとしなかった。製品と市場は、常に魅力あるものでなければならなかった。実に、この集中の原則に従ってきたことこそ、わずか15年の間に世界で最も有名な中企業となったのだった。1970年代には、中企業から大企業への成長を見たのだった。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
ここにドラッカーが、具体的にどのようなステージと規模、状態、特徴を持つ企業を中企業と指しているのか、理解することができる。70年代当時のソニーが、我々が理解しやすいところの中企業代表例ということだ。
「卓越性が必要な分野では、中企業は、あたかも大企業であるかのように行動したほうがよい。それは強みを必要とする分野である。しかしそうでない分野では、最小限のことしか行うべきではない。中企業とは、特定の重要な分野においてリーダー的な地位にある企業である。この地位を維持することこそ、中企業にとっての成功の鍵である。散漫は失敗を招く。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
中企業はおそらくイノベーションに最も適した規模だとドラッカーは言う。しかしその立ち位置を活かしイノベーション活動を行うには、すでに持っている強みをさらに強くするものである必要がある。
中企業の強みは、一定の分野、一定の市場に置いて卓越性を発揮するところにある。相乗効果的な複数の事業を持つ中企業においても、イノベーションは...
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